新専門医制度は、2018年度から始まった専門医の新しい認定制度です。19の基本領域とサブスペシャリティ領域の研修プログラムがあり、それぞれの専門医資格を取得できます。
しかし、制度が始まって以来さまざまな問題点や課題が指摘されており、今後も改訂を繰り返す可能性があるでしょう。
今回は、新専門医制度の現状を踏まえた課題や問題点について詳しく解説します。課題解決に向けた今後の情報をキャッチできるように、ぜひ参考にしてみてください。
新専門医制度とは
新専門医制度とは、2018年度に開始された専門医の新しい認定制度です。これまでの専門医制度では、領域ごとに学会が独自で認定制度を構築していたため、専門医の質にバラつきがありました。
そのため、新専門医制度は、第三者機関の日本専門医機構が基準を定め、専門医の質の統一化を目指す目的で設けられた制度です。
専門医資格の取得には、2年間の初期臨床研修を終えた医師が各専門研修のプログラムに応募する必要があります。また、このプログラムの応募には専攻医登録のほか、試験や面接などに合格することが必須条件です。
合格した専攻医は、研修プログラムに参加できます。プログラムは2段階構造であり、19の基本領域と細分化されたサブスペシャリティ領域において研修を行います。それぞれ3年以上かけて研修するため、初期研修後からサブスペシャリティ領域の研修修了までに最短でも6年の期間が必要です。
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専門医制度の現状
新専門医制度は、医療におけるさまざまな問題を解決する制度として定められました。しかし、プログラムの研修を受けられる病院や研修を実施している領域は、地域によって偏差があります。そのため、採用される専攻医においても地域偏差があるのが現状です。
2023年度に採用された専攻医の数について、以下の表を参考にしてみてください。専攻医の採用人数が多い都道府県の上位3位までをまとめています。
採用された専攻医の合計(最多の領域、最小の領域) | |
1位 東京都 | 1,832名(内科537名、臨床検査6名) |
2位 大阪府 | 676名(内科215名、臨床検査3名・総合診療3名) |
3位 神奈川県 | 665名(内科216名、臨床検査1名) |
出典:日本専門医機構「2023年 採用数」
東京都に次ぐ大阪府では専攻医の総数が東京都の2分の1以下であり、都市部であっても採用されている人数差は歴然です。しかし、上位3都府県は19の基本領域すべての専攻医を1人以上採用できています。1人も専攻医を採用できなかった領域がある県も複数あるので、このデータを見ても大都市圏に医師が集中してしまっている現状であることがわかるでしょう。
次に、専攻医の採用人数が少ない都道府県について、少ない方から3番目までを以下にまとめています。
採用された専攻医の合計(最多の領域、最小の領域) | |
47位 徳島県 | 38名(内科9名、小児科0名・眼科0名・泌尿器科0名・放射線科0名・臨床検査0名・リハビリテーション科0名) |
46位 島根県 | 40名(内科7名、小児科0名・耳鼻咽喉科0名・病理0名・臨床検査0名・リハビリテーション科0名) |
46位 香川県 | 40名(内科13名、眼科0名・耳鼻咽喉科0名・泌尿器科0名・病理0名・救急科0名・リハビリテーション科0名) |
出典:日本専門医機構「2023年度 採用状況」
地方になるほど専攻医がいない診療科領域が増え、地域による採用の偏差がわかります。
また、地域によって研修プログラムがない診療科領域もあります。2023年度の時点で、島根県では形成外科領域、香川県では臨床検査領域の研修が受けられません。島根県、香川県だけではなく、10の県で研修プログラムそのものがない領域が存在しています。
このように、新専門医制度ではいくつかの課題や問題点が見えてきています。専攻医に登録する医師は、制度の課題や問題点についても把握することが大切です。
新専門医制度における課題や問題点
新専門医制度における問題点は、現時点で以下の5つが挙げられます。
● 専攻医が都市部に集中してしまう
● ライフイベントとの両立が難しい
● 診療科によって資格取得までの年数や難易度が異なる
● 研修時の施設移動が頻繁に起こる可能性がある
● 特定の専門医の不足が懸念される
ここでは、上記に挙げた5つの問題点について見ていきましょう。
専攻医が都市部に集中してしまう
専門医資格の取得には、専攻医に登録して診療科領域の研修プログラムを受講する必要があります。
しかし、研修プログラムを実施している病院は都市部に多く、地方には少ないのが現状です。さらに、進みたい領域の研修が受けられない地域もあり、大きな地域偏差が生まれています。
そのため、地方の病院で初期研修をしていた医師たちが、希望する領域の研修プログラムがある都市部に移動するという現象が起きるのです。その結果、専攻医が都市部に集中し、地域によって専攻医の数に差が出ることが問題となっています。
専攻医が都市部に集中すると、ある地域の特定の領域において専攻医がいなくなり、地域医療の現場では医師不足などの問題が起きる可能性もあるでしょう。
ライフイベントとの両立が難しい
新専門医制度では、勤務先と研修先の病院が異なります。研修を受けるために、生活拠点を変える必要があり、ライフイベントとの両立が難しくなるのです。
専門医資格を取得したくても、家庭の事情により居住している場所から離れられない医師もいるでしょう。そうなると、自分が働いている病院に研修プログラムがない場合、専門医になることを諦めなければならないという問題も生まれます。
その結果、地方の医療に貢献したい医師や自分のキャリアを真剣に考えている医師への機会損失につながるでしょう。
女性医師の中には、専門医資格の取得を目指したいという向上心のある人も多いのではないでしょうか。しかし、女性にとって出産や育児などのライフイベントは、仕事との両立に影響を与える可能性があります。
両立の難しさが原因で、女性医師のキャリアアップが実現できないことも制度の大きな問題点といえるのです。
診療科によって資格取得までの年数や難易度が異なる
新専門医制度では、各領域の学会が研修プログラムを整備しています。専攻医登録の後に受ける試験や面接においてもプログラムごとに選考基準を定め、採用の段階から診療科による差があるでしょう。
研修プログラムは、領域ごとに到達目標や研修方法、評価の方法、認定基準が設定されています。そのため、診療科によって資格取得できる難易度が異なるという問題が生まれてしまうのです。
また、サブスペシャリティ領域では、一部領域のみ連動研修が認められています。連動研修とは、基本領域の専門研修をサブスペシャリティ領域の一部の研修とみなすことができる制度です。そのため、通常は最短でも6年かかるサブスペシャリティ領域の研修の期間を、短くできる可能性があるといえます。
資格取得までの年数が短縮できるのはメリットですが、すべての領域で認められているわけではありません。また、連動研修として認めてもらえる基準も領域ごとで異なってきます。そのため、できるだけ早く専門医資格を取るために、連動研修が認められた領域で研修を受けようとする医師も増えるでしょう。
研修時の施設移動が頻繁に起こる可能性がある
新専門医制度における基本領域の研修では、基幹施設と連携施設などによる研修施設群が形成されていることが制度の特徴です。この基幹施設には大学病院や中核病院などを選定し、連携施設には地域の病院が協力する形で構成されています。
専攻医は常に基幹施設と連携施設を移動し、ローテート研修を受ける必要があるのです。住んでいる地域によっては施設移動が頻繁に起こる可能性があり、専攻医に大きな負担がかかるでしょう。
ローテート研修が行われる理由として、専攻医が受ける研修の質の担保や地域医療の活性化などがあります。
ただし、研修先によっては、医師の生活拠点を変えなければなりません。その結果、家庭と仕事の両立に悩む医師や施設移動を負担に感じる医師が増えてくるでしょう。
その結果、医師が本来希望する地域や領域ではなく、施設間の移動距離が短い地域を選ぶ人が増え、専攻医が都市部に集中する問題がさらに加速することも考えられます。
特定の専門医の不足が懸念される
新専門医制度が始まって以来、地域による専攻医の採用人数に大差が生まれている現状があります。
都心部においては、19領域すべての基本領域で研修プログラムを受講している専攻医がいるのに対し、地方では専攻医がいない領域が数多くあります。
都道府県や領域によって、専攻医の数にバラつきが生まれていることは、将来的に特定の専門医が不足する可能性も示唆しています。
特に、医師の数が減少している外科や産婦人科では、今後専門医がいなくなる地域も出てくる可能性があると懸念されています。専門医の数が充実している都市部から、専門医がいない地域への医師派遣により一時的に問題は解決できますが、根本的な解決には至りません。
その結果、特定の領域における医療の地域格差が生まれ、地域医療が適正化されないなどの問題が生まれる可能性があるといえるでしょう。
参照:内閣府「医師総数の増加と地域偏在の状況」
課題解決に向けた今後の動き
新専門医制度においてさまざまな問題点が指摘されているなか、専攻医の極端な偏在や地域医療への影響などが生まれないように制度の見直しが行われています。
今後、新専門医制度がどのように進んでいくのか動向を追うことが重要です。ここでは、厚生労働省と日本専門医機構が出している今度の動きについて説明します。
厚生労働省
厚生労働省では、地域医療構想や医師偏在対策、医師の働き方改革を重視して「医師確保計画」を策定しています。医師確保計画は3年を1期と据え、2024年度からスタートする計画に向けて、主に以下のような目標が検討されています。
● 2036年を目標に医師偏在の解消
● 産科や小児科など医師が減少している領域における医師の確保
● 医療圏を超えた地域間の連携
● 診療科ごとの将来必要となる医師数の算出
これらの目標達成するために策定された医師確保対策では、都道府県内における医師の派遣を行い、地域の医師不足解消を目指すほか、医師のスキルアップの機会を確保するためにキャリア形成プログラムの策定を打ち出しています。また、医学部における地域枠・地元出身者枠の設定などが計画されています。この計画は都市部に医師が集中するのを防ぐための施策です。
厚生労働省では期間ごとに見直しや修正しながら長期的な取り組みが実施しており、地域による医療格差や医師の偏在、医師不足などの問題が徐々に解消していくでしょう。
参照:厚生労働省「医師確保計画策定ガイドライン」
参照:厚生労働省「第8次医療計画、地域医療構想等について」
日本専門医機構
日本専門医機構では、新専門医制度の適正な運用と地域による医師偏在対策を重視し、課題解決に向けた計画を進める方針があります。
主な課題として、以下の点が挙げられます。
● サブスペシャリティ領域の拡大
● 領域別のシーリング効果
サブスペシャリティ領域は今後も拡大が見込まれていますが、どの領域や学会を認定すべきか慎重に審査する必要があるでしょう。
また、必要な医師数を確保するためには、子育て世代のサポートや地域偏差を解消できるシーリング制の効果が期待されます。
日本専門医機構では、制度の運用や課題解決に向けた取り組みが行われており、どの地域にいても信頼できる専門医から標準的な医療が受けられる体制が期待できるでしょう。
参照:日本専門医機構「2021年度(令和3年度)事業報告書」
まとめ
新専門医制度は、2018年から始まった新しい専門医の認定制度であり、スタートしてから地域偏差や医師の確保、適正な制度の維持などさまざまな問題が指摘されています。
数多くの課題に対して、厚生労働省や日本専門医機構では慎重に審議を重ね、長期的な計画の策定と課題の解決に向けた取り組みが実施されています。今後、専門医の資格取得を目指す医師のスキル向上や働きやすい体制が可能になるでしょう。
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