非常勤医師とは、フリーランスとして複数の医療機関をかけ持ちしたり、育児や介護に時間を割くために短時間だけ働いたりする働き方です。
本記事では、非常勤医師という働き方に興味がある方に向けて、具体的にどのような働き方があるのか、年収やメリット・デメリットなどをご紹介します。
非常勤医師とは
医療機関に正規職員として雇用されている医師を常勤医師といい、アルバイトやパートなどの非正規雇用で非常勤として働く医師を非常勤医師といいます。
正規職員の場合は、就業規則によって勤務時間が決められていますが、非常勤医師の場合は、常勤医師よりも勤務時間が短いことが多い傾向です。また、勤務する曜日や時間帯も、雇用者と被雇用者の双方のすり合わせによって決められることが大半です。
一般企業における正社員が常勤医師、パート・アルバイトが非常勤医師と考えればわかりやすいでしょう。
非常勤医師と常勤医師の違い
非常勤医師と常勤医師の違いは、1週間の勤務時間が異なる点です。常勤医師は、厚生労働省が所管する医療法によって、下記のように勤務時間が定められています。
- 常勤医師とは、原則として病院で定めた医師の勤務時間のすべてを勤務する者をいう。
- 病院で定めた医師の1週間の勤務時間が、32時間未満の場合は、32時間以上勤務している医師を常勤医師とし、その他は非常勤医師として常勤換算する。
引用:厚生労働省医政局「医療法第 25条第 1項の規定に基づく立入検査要綱」
例えば、1週間の労働時間が32時間と決められている医療機関の場合、1日8時間の勤務を4日間働くと常勤医師となり、それ以下の場合は非常勤医師の扱いとなります。もちろん1週間の労働時間は、医療機関によって異なるため、32時間以上働けば必ず常勤医師になるというわけではありません。
また、非常勤医師は勤務時間以外にも、給与、手当、社会保険、就業規則なども、常勤医師とは異なった条件で採用されることがほとんどです。
非常勤医師の働き方
非常勤医師の働き方は、主に以下の2つがあります。
働き方 | 概要 |
定期非常勤 | 所定の曜日・時間帯に定期的に勤務する |
スポット | 単発で勤務する |
定期非常勤は一定期間、決まった曜日・時間帯に働くのに対し、スポットは募集があるときだけ単発で勤務する働き方です。
定期非常勤
定期非常勤は、常勤医師が不足している診療科で働いたり、産休・育休や家庭の事情で長期休暇を取得する常勤医師の代わりに勤務したりする働き方です。
具体的には外来診療にあたる場合が多く、週に1~2日ほど終日勤務するケースや、水曜午前のみ、木曜午後のみ、土曜日当直のみなど、定期的かつ限定的に働きます。
定期非常勤のメリットは、希望する曜日や時間帯に勤務ができるので、他の医療機関とかけ持ちしやすい点や、決まった額の報酬が定期的に得られる点がメリットです。
ただし、キャリアアップにつながることが少なく、待遇面も常勤医師に比べると劣るのがデメリットといえるでしょう。また、不足していた常勤医師が採用できたときや、休職者が復職した場合は、雇用が打ち切られるケースもあるため、不安定な働き方であることは否めません。
スポット
スポットとは、突発的に発生した医師の人材不足を補うため、1日から数日間だけ勤務する働き方です。
年末年始やゴールデンウィークなど、常勤医師が休暇を取得する際や、事故やケガなどの影響で急に医師不足になった場合のほか、企業の一斉健康診断やワクチン接種などの対応にあたる人材確保のために募集されることが主なケースです。
メリットは、1日勤務で10万円といったように、勤務時間あたりの報酬が高額なことが挙げられます。一方、いつ募集があるかが不定期であるため、定期的な収入にはなりにくい点がデメリットになるでしょう。
非常勤医師の年収
非常勤医師は、常勤とかけ持ちで働くことが多いため、非常勤医師として働いた分の年収を算出することは難しいです。しかし、厚生労働省の「2022年度(令和4年度)賃金構造基本統計調査」によると、勤務医(企業規模10人以上)の平均年収が1,428.9万円であることから、非常勤のみで働く場合はこれよりも低く、常勤とかけ持ちで働く場合はこれより高くなると推定されます。
また、企業規模や地域、診療科目などによっても異なりますが、非常勤医師の時給はおよそ10,000円が目安といわれています。収入を増やしたい人や、かけ持ちを考えている人は、時給額を目安に働き方を見直してみるのもよいでしょう。
非常勤医師の業務内容
非常勤医師の業務には、どのようなものがあるのでしょうか。以下に主な業務内容をまとめました。
業務内容 | 概要 |
外来診療 | 初診や再診など、通院患者の診察・検査・治療を行う |
病棟管理 | 看護師などから依頼があった場合、入院患者に対する診療を行う |
当直 | 夜間や診療時間外に勤務し、入院患者や救急患者に診療を行う |
日直 | 休日や祝日などの日中に勤務し、入院患者や救急患者に診療を行う |
救急対応 | 救急車で運ばれてくる患者の診療にあたる |
手術 | 眼科、美容皮膚科、美容外科では手術を行うケースもある |
非常勤医師で一番多い業務は外来診療ですが、そのほか病棟管理、当直、宿直、救急対応などを担当することもあります。なお、手術を行うことはまれですが、眼科、美容皮膚科、美容外科では非常勤医師が執刀するケースも見られます。
非常勤医師として働くメリット
非常勤医師として働くメリットは、主に以下の4つがあります。
- 時間の融通が利く
- 時給換算で常勤よりも収入が高い
- オンコール対応がない
- 人脈を広げられる
以下で詳しく説明していきます。
時間の融通が利く
非常勤で働く場合、決まった曜日や時間帯を選んで働くことができるため、時間の融通が利きます。非常勤であれば、育児や親の介護をしながら働いたり、ワークライフバランスを優先させて短い時間で働いたりすることも可能です。
時給換算で常勤よりも収入が高い
スポットで働く場合は、1日10万円の募集も少なくありません。時給換算では常勤医師よりも収入が高くなる計算です。集中してスポットの仕事を入れることができれば、結果的に高額な報酬を効率良く得ることができ、短期集中で稼ぎたい方には魅力的な働き方といえるでしょう。
オンコール対応がない
非常勤医師は、オンコール対応がない場合がほとんどです。常勤医師の場合は、救急搬送や入院患者の容態が急変したときなど、オンコール対応が求められることが多く、いつでも駆けつけられる態勢で過ごさねばなりません。病院から呼び出しがあった際、いつでも駆けつけられるように準備しておくことは、人によっては疲労やストレスを溜め込みやすくなります。
しかし、非常勤医師にはオンコール対応をするケースがほぼないため、休日と勤務日のメリハリをつけやすく、プライベート時間をより充実させることができるでしょう。
人脈を広げられる
非常勤医師として複数の医療機関をかけ持ちして働く場合、ひとつの医療機関で働く場合と比べて、より多くの医療スタッフと関係を持つことになるため、人脈を広げやすくなります。
人脈が広がれば、自身のキャリア、研究、人生においての相談事について、多くの人の意見を聞くことができるほか、将来開業する場合はスタッフ集めに役立つこともあります。
非常勤医師として働くデメリット
非常勤医師として働く主なデメリットは、以下の3つです。
- 福利厚生や手当が少ない
- 常勤医師と比べて安定性が低い
- 専門性を極めにくい
以下で詳しく説明します。
福利厚生や手当が少ない
非常勤医師は、基本的に、福利厚生や手当が少ない傾向です。健康保険や年金などの社会保険も自分で負担する必要があり、多くの場合で住宅手当や家族手当、退職金なども支払われることはありません。
とはいえ、個人事業主であれば、小規模企業共済などに加入すると確定申告時に控除が受けられ、税法上のメリットが受けられます。また、個人年金に加入することで、将来の不安を少しでも取り除くことができるため、控除や年金を利用して自身で上手にやりくりしていきましょう。
常勤医師と比べて安定性が低い
非常勤医師は、雇用が途切れてしまう可能性が高く、安定性は低いといえるでしょう。正規職員と比べて社会的信用が得られにくいため、住宅ローンの審査にも通りにくくなります。持ち家が欲しい方は常勤医師のときに住宅ローンを組み、その後非常勤医師に移行するというのもひとつの手です。
専門性を極めにくい
非常勤医師は、ルーティンワークを任されることが多いため、スキルアップにつながる症例を診るケースが少ない傾向にあります。そのため、専門性を極めにくいのがデメリットといえるでしょう。学会に所属して自己研鑽に励むことで、自ら専門性を極めることが大切です。
非常勤医師として働くには?
非常勤医師として働くには、主に以下2つの方法があります。
- 医局や知人からの紹介
- 転職エージェントを利用する
非常勤医師として働くには、医局の同僚や先輩などからアルバイト先を紹介してもらったり、転職エージェントを利用したりするケースが大半です。
医局や知人からの紹介
現在働いている医局や、かつて在籍していた医局の同僚・知人に、非常勤として働きたい旨を相談すれば、ツテをたどってアルバイト先を紹介してくれる場合があります。
信頼できる知人からの紹介であれば、安心して入職できるでしょう。ただし、必ずしも自分の希望や条件に合った職場が見つかるわけではありません。また、入職後は紹介者の顔を立てる必要があるため、辞めづらいと感じることもあるでしょう。
転職エージェントを利用する
医師に特化した転職エージェントでは、非常勤医師の求人も扱っています。知人に頼るよりは、多くの医療機関の情報を得ることができ、非公開の求人情報も紹介してもらうことができます。具体的には、転職エージェントに登録し、希望の条件を伝えれば、キャリアアドバイザーが相応しい医療機関を紹介してくれます。
メリットは、自分で情報収集や医療機関とやりとりをしなくてもよい点が挙げられます。デメリットとしては、キャリアアドバイザーとの密なコミュニケーションが必要なことから、煩わしいと感じる場合があることです。エージェントとコミュニケーションをとる際には、事前に電話やメールなどの連絡方法、都合の良い時間帯などをエージェント側に伝えておくようにしましょう。
まとめ
今回は、非常勤医師と常勤医師の違いや、非常勤医師の働き方、メリット・デメリットについて詳しく紹介してきました。非常勤医師の働き方に興味を持った方は、ぜひこの記事を参考に転職を成功させてください。
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