医師の仕事は報酬が高いと思われがちですが、実際、全国の勤務医たちの平均年収は、年齢や診療科、勤務先、役職など、条件によって異なるのが現状です。
ハードワークの対価としては、報酬に納得がいかない勤務医の方もいるでしょう。ここでは、さまざまな条件別の平均年収や収入をアップする方法などをご紹介します。
勤務医の平均年収
多くの責任を背負い、ハードな仕事をこなす医師にとって、満足な報酬を得られるかどうかは、仕事の満足度を図るための重要なポイントとなるでしょう。
ちなみに、勤務医の平均年収は、年齢、診療科、勤務地、経営母体などの条件によって大きな差がありますが、厚生労働省の「令和4年賃金構造基本統計調査」によると、医師の平均年収は1,428万円となっています。
一見すると高額ですが、勤務医の場合、一般的なサラリーマンと同様、給与からさまざまな費用が引かれます。具体的には、所得税、住民税、健康保険、介護保険、厚生年金、雇用保険が天引きされるほか、勤め先によっては、生命保険や財形貯蓄などが引かれることもあります。その結果、勤務医の手取り額は、収入の約60〜70%ほどになると考えられます
【年齢別】勤務医の平均年収
まずは、年齢別に勤務医の平均年収を見てきましょう。
年齢 | 年収(男性)(万円) | 年収(女性)(万円) |
20~24歳 | 474.5 | 435.8 |
25~29歳 | 751.7 | 639 |
30~34歳 | 952.3 | 1008.4 |
35~39歳 | 1197.3 | 1011.2 |
40~44歳 | 1340.4 | 1184.8 |
45~49歳 | 1572.1 | 1309.6 |
50~54歳 | 1704.3 | 1640.6 |
55~59歳 | 1744.7 | 1463.9 |
60~64歳 | 1826.3 | 1205.1 |
65~69歳 | 1609.4 | 1399.9 |
70歳〜 | 1506.8 | 990.3 |
出典: e-stat「政府統計2019年賃金構造基本統計調査 第2表」
男女別に平均年収を見てみると、女性の医師の平均年収は、男性より低い結果となっています。その理由としては、女性の場合、出産や育児などによって勤務時間・日数を減らさざるをえない時期があることが考えられます。
また、年代別に見てみると、年齢に伴って平均年収も上がり、30代後半になると、1,000万円を超えるケースも見られます。また、60代後半を境に下がってくる傾向にあります。
【診療科別】勤務医の平均年収
では、診療科ごとの平均年収はどうでしょうか。2011年に独立行政法人労働政策研究・研修機構が行った「勤務医の就労事態と意識に関する調査」によると、診療科ごとの平均年収は、上から順に以下のようにランキングされています。
診療科 | 平均年収(万円) |
脳神経外科 | 1480.3 |
産科・婦人科 | 1466.3 |
外科 | 1374.2 |
麻酔科 | 1335.2 |
整形外科 | 1289.9 |
呼吸器科・消化器科・循環器科 | 1267.2 |
内科 | 1247.4 |
精神科 | 1230.2 |
小児科 | 1220.5 |
救急科 | 1215.3 |
その他 | 1171.5 |
放射線科 | 1103.3 |
眼科・耳鼻咽喉科・泌尿器科皮膚科 | 1078.7 |
調査結果から、外科系の診療科目が上位を占めていることが分かります。その理由の一つとして、労働時間が長いことが考えられます。外科系の医師は通常の診療に加え、緊急手術が必要になったり、術後に容態が急変したときに、労働時間外でも対応しなければならないからです。また、より専門的な知識や技術、臨床経験なども不可欠であるため、対価も高くなるのでしょう。
【勤務地別】勤務医の平均年収
次に、勤務地別に勤務医の平均年収を見て見ましょう。
県 | 万円 |
東京都 | 1,040 |
大阪府 | 1,315 |
山口県 | 1,642 |
北海道 | 1,103 |
高知県 | 1,252 |
必ずしも都心の方が地方都市より平均年収が高いわけではないことが分かります。その理由としては、医師不足など地域の医療事情が影響していることが考えられます。その理由としては、医師不足など地域の医療事情が影響していることが考えられます。こうした事情を考えると、地方の医療機関に勤めれば、若い医師でも高い収入を得るチャンスが期待できそうです。
【経営母体別】勤務医の平均年収
勤務医の平均年収は、勤務先の病院がどのような経営母体かによって、大きく変わってきます。経営母体には、次のようなものがあります。
- 国立病院
- 公立病院
- 公的病院
- 医療法人立病院
- 個人病院
これらの経営母体別の平均年収は以下の通りです。
経営母体 | 平均年収(万円) |
国立病院 | 882.4 |
公立病院 | 1347.1 |
公的病院 | 1353.4 |
医療法人立病院 | 1443.8 |
個人病院 | 141.0 |
この調査結果によると、医療法人に勤務する医師の平均年収が高めであることが分かります。経営母体によって平均年収に差が出てくる理由としては、社会的な立ち位置も影響しています。
例えば、平均収入が低い国立や公的病院などは、経営に際して国や地方自治体などの財政状況と切り離せないこともあり、人件費を抑えざるを得ないといった事情があることが考えられます。
国立病院
国立病院とは、全国に140の病院を運営する独立行政法人が運営する病院のことです。具体例を挙げると、独立行政法人病院機構、国立大学法人、国立高度専門医療研究センターなどがあります。
医師の給料は独自の給与規定に基づいて支給され、医長以上は年俸制が採用されています。また、国立病院の勤務医には、規定の給与に加え、業績手当、宿日直手当、特殊業務手当のほか、業務以外の手当、例えば扶養・住居など、生活にかかわる各種手当が厚いのも特徴です。
公立病院
公立病院とは、都道府県や市町村が運営する病院のことです。一般診療のほかに、へき地や離島などでの診療、救急災害医療、高度・先進医療など、民間の医療機関では対応しきれない医療に携わっています。
年収は、医療法人立病院などの民間病院よりは低めの傾向があります。その背景には、地域医療を担う公立病院には、利益率にとらわれない、非採算領域での医療を行う任務があることが考えられます。
公的病院
公的病院とは、厚生労働省が定めた運営団体を母体とする病院のことです。例えば、都道府県・市町村・地方公共団体の組合、国民健康保険団体連合会及び国民健康保険組合、日本赤十字社、社会福祉法人恩賜財団済生会、厚生農業協同組合連合会、社会福祉法人北海道社会事業協会などが母体となっています。
公的病院は「医療のみならず保健、予防、医療関係者の養成、へき地における医療等一般の医療機関に常に期待することのできない業務を積極的に行い、これらを一体的に運営する」ことが役割とされています。
その点では、公立病院と経営母体は異なるものの、任務としては似ているといえます。そのため、収入についても、医療法人立病院よりは低めの傾向があります。
医療法人立病院
医療法人とは、厚生労働省によると、「病院、医師もしくは歯科医師が常時勤務する診療所又は介護老人保健施設を開設することを目的として、医療法の規定に基づき設立される法人」(引用:厚生労働省|医療法人の基礎知識)と定義されています。大きく分けると、病院や診療所などの開設を目的とした社団医療法人と、寄附や財産などに基づいて設立される財団医療法人の2種類があります。
医療法人立病院は国公立や公的病院と比べて、医師やスタッフの数が少ないため、医師ひとりに対する患者数が多くなります。また、より利益を追求する側面もあります。こうしたことから、勤務医の年収も高めの傾向にあるのでしょう。
個人病院
個人病院とは、法人化せず、個人によって経営されている病院のことです。そのため、財産や収入は経営者に帰属し、営利目的の活動も自由にできます。また、院長の専門分野を主に診る専門病院とし、20床以上の病床が設置されているケースが多いのも特徴です。
個人病院の勤務医の年収は経営者の運営の仕方によって変動することが考えられますが、医療法人や国公立・公的病院の勤務医と比べると、やや低めの傾向にあります。
【勤務先の規模別】勤務医の平均年収
次に、勤務先の規模別に平均年収を見てみましょう。
勤務先の規模 | 年収(万円) |
10~99人 | 1748.1 |
100~999人 | 1462.6 |
1,000人以上 | 968.9 |
出典:e-stat「政府統計2019年賃金構造基本統計調査 第2表」
勤務する人数から経営母体を想定すると1,000人以上は大学病院や地域の機関病院といった大規模な病院、100人〜999人は民間の中小規模病院となります。統計結果から、大規模な病院になるほど平均年収は下がるようです。
勤務医が年収を上げるには
ここまでは、勤務医の平均年収について、さまざまな条件ごとに見てきました。ここからは、年収アップを目指すための方法について紹介します。
勤務医が年収を上げるためには、以下のような方法が考えられます。
- 勤務時間を増やす
- 役職に就くことを目指す
- 非常勤医師としてアルバイトをする
- 転職をする
以下で詳しく見てみましょう。
勤務時間を増やす
勤務医の給与体制は、年俸制がとられていることが多く、同じ病院での勤務時間を増やすことで、収入アップを目指せます。例えば、非常勤ではなく常勤の勤務形態を選んだり、通常業務だけでなく当直やオンコールも担当したりすることで、収入アップが期待できます。ただ、常勤医師として採用してもらえるかは医師としての経験値が求められますし、勤務時間が増えれば、その分ハードワークにもなります。そのため、年齢や体力・気力を踏まえて、検討しましょう。
役職に就くことを目指す
役職に就くことでも収入アップは期待できます。例えば、科長や部長、病院長といった役職につくと、通常の給与に役職手当が加算されます。ただし、勤務先の経営母体にもよるので、条件などを確認しておきましょう。
役職に就くことを目指すためには、臨床や研究などの実績を上げることはもちろん、組織内でのコミュニケーション力も重要です。そのため、日頃からチーム医療を意識し、その中で決断力を身につけることで、周囲からの信頼を得られるよう心がけましょう。
アルバイトをする
勤務先の業務時間以外の時間を活用して、非常勤の医師として他の病院で働くなど、スポット(単発)のアルバイトをすることも年収アップにつながります。体力のある若手の医師の場合、当直やオンコールなどのアルバイトは日給が高いのでおすすめです。
また、臨床経験を積めるというメリットもあります。やや古いデータではありますが、独立行政法人労働政策研究・研修機構が2011年に行った「勤務医の就労実態と意識に関する調査 」 によると、メインの勤務先のほかに1ヶ所アルバイト先がある医師の平均月収は22.4万、年収では268.8万円アップすることが期待できることになります。
ただし、こうした単発のアルバイト先に採用してもらうためには、即戦力を見込んでもらえる情報が必要です。そのために、専門医の資格など、目に見える形でアピールできるものを持っておくと有利でしょう。
転職をする
勤務先の病院や業務形態などによっては、アルバイトを掛け持ちできないこともあるでしょう。そうした場合には、思い切って転職を検討することも一つの方法です。どのくらい年収をアップしたいのか、またそのためにかけられる体力・気力などに合わせて、より条件のよい勤務先を選びましょう。とはいえ、メインの収入源だった病院を辞めるのは、覚悟と勇気がいるもの。その際に便利なのが、転職エージェントです。
転職エージェントは、医師の公募情報のほか、経営母体や役職など、条件ごとの事情なども含め、医師の転職事情に関する豊富なデータがそろっています。まずは登録して、満足できる転職先につけるよう準備しましょう。
まとめ
勤務医の平均年収は、経営母体や年齢、診療科、勤務形態や勤務時間といった条件によってかなり差が出ることが分かりました。現状に満足がいかず、年収アップを目指すなら、非常勤医師としてアルバイトをしたり、転職を検討したりするなど、さまざまな方法があります。明るい未来を見据え、ワークライフバランスなども加味しながら、効率よく収入アップできるよう準備しましょう。そのために、医師専門の転職エージェントを活用するのも一つの手です。