キャリアアップを考えている医師であれば、専門医の資格を取得するかどうか検討しなければならない時期がやってくるでしょう。
専門医制度は、2018年4月に新制度が始まり、内容が一新されました。新制度導入以降、毎年約9割の臨床研修終了者が専門医資格の取得を志望していることも明らかになっています。
今回は、専門医資格を取得するメリットを中心に、デメリットやキャリアプランについても解説します。
本記事を読めば、専門医資格を取得するかどうか判断できるようになるでしょう。また、医師としてのキャリアプランを立てる際にも役立ちます。専門医資格を取得するかどうか迷っている人は、参考にしてみてください。
専門医とは
専門医とは、特定の医学分野において、深い知識と高度な技術を持って診療にあたっている医師を指します。専門医資格は医学部を卒業し臨床研修を終えたあとに、専門的な研修・試験を経て認定される資格です。
2018年からは専門医の質の統一や、医療の地域間格差を改善するために新専門医制度が導入されました。これにより、専門医になるためにはまず自分が目指す診療科を19の基本領域から定め、その後基本領域から派生した24のより専門的なサブスペシャリティ領域の研修を受ける必要があります。
新制度が導入されて以降、各分野の資格取得方法や合格基準が統一され、より一層専門医の権威性が増していくと考えられるでしょう。
医師としての希少価値を高め、理想とするキャリアプランを構築していくためには、もはや必須の資格かもしれません。
関連記事:新専門医制度とは?いつから始まった?既存制度との違いをわかりやすく解説
参照:日本専門医機構|一般の皆様へ
厚生労働省|今後の医師養成の在り方と地域医療に関する検討会資料 専門医の現状と課題(H29年4月24日)
専門医の資格を取得するメリット
専門医の資格を取得すると、どのようなメリットがあるのでしょうか。具体的には以下の通りです。
- スキルアップができる
- 専門性が証明できる
- 信頼性を得やすい
- 給与や待遇の向上につながる
- 転職や開業に有利になる
専門医の資格は、新制度の導入により資格取得までのプロセスが厳格化されました。言い換えてみれば、「真に知識と技術のある医師しか専門医を名乗れないようになる」と捉えることもできます。専門医の資格を取得すると、医師としてのキャリアに大きなメリットがあるため、確認しておきましょう。
スキルアップできる
専門医の資格を取得すると、医師としてのスキルアップが期待できます。専門医資格を取得するためのカリキュラム内で、その分野に特化した深い知識や高度な技術を身につけられるからです。また、研修を通して同じ分野の専門家との交流が図れるため、最新治療などの情報交換もしやすくなります。
たとえば、心臓外科医の専門医として研修を受けた場合、多くの心臓外科医とのネットワークを構築できます。そのため、難しい症例の相談や、最新治療の情報交換等が可能となり、自身のスキルアップにつながるでしょう。
医師として長く活躍するには、スキルアップの意識を持ち続けなければなりません。専門医資格の取得は、スキルアップの一助となるため大きなメリットといえるでしょう。
専門性が証明できる
病院でよく見かける「内科」や「整形外科」などの診療科目は、標榜診療科といいます。指定されたルールさえ守れば自由に表記可能で、その病院や病院に所属している医師の得意分野を患者に伝えられます。
一方で、「内科専門医」や「整形外科専門医」などの専門医の表記は、資格を持っている医師しか使用できません。そのため「専門医」と明示されていると、特定の分野への専門性を証明できることになります。
インターネットの普及に伴い、病院や医師の情報もすぐに調べられる時代です。そこに専門医の表記があると、専門性の証明となるため大きなメリットになるでしょう。
参照:日本医師会|診療科名の標榜方法の見直し
信頼を得やすい
専門医の資格は、その医師が対象の分野において深い知識と高度な技術をもっている証明になります。そのため患者は「安心して治療を任せられる」や「最新の治療を受けられる」と感じられ、信頼を寄せやすくなるのです。
また新制度導入に伴い、専門医資格の取得プロセスは難易度が高まりました。これにより専門医の資格は今まで以上に箔が付いた状態です。同僚医師や医療従事者からの信頼も得やすくなり、勤務先でも頼りにされる存在となるでしょう。
給与や待遇の向上につながる
2023年10月現在、専門医資格を有することによる診療報酬の加算等はありません。そのため、専門医の資格を保有しているからといって、必ずしも給与や待遇が向上するとはいえないのが現状です。
しかし、勤務先によっては専門医資格を有する医師に対して、給与や待遇を手厚くする動きもみられています。なぜなら、専門医が在籍していることをうまくアピールできれば、病院の収益アップにつながるからです。
専門医資格の希少価値が高くなっている現在、待遇面を考慮する勤務先が増えると予想されます。専門医資格を取得したあとの待遇については、勤務先や就職希望先に事前に確認しておくようにしましょう。
転職や開業に有利になる
これまで解説したように、専門医資格を保有していると、スキルや信頼性の向上、専門性の保証などさまざまなメリットがあります。その結果、転職活動や開業にも有利に働く可能性もあると考えられます。
医師不足が深刻な地域や、特定の分野への患者ニーズが高い病院では、専門医資格を有する医師は、のどから手が出るほど欲しい人材でしょう。
また開業する場合には、専門医資格を院内や病院ホームページに掲載できます。患者からすると、専門医の資格は診察を受ける際の安心材料となるため、安定した病院経営が可能となるでしょう。
参考|厚生労働省|医療に関する広告が可能となった医師等の専門性に関する資格名等について
専門医の資格を取得するデメリット
専門医資格取得にはメリットがある一方で、デメリットもあります。それは、学会への入会や資格更新にある程度の費用が必要なことです。
分野や所属する学会によって金額は異なりますが、学会への入会費で数千円〜数万円。学会の年会費が数万円程度必要になります。さらに専門医資格を取得すると、5年ごとの更新にも費用がかかります。このように、専門医資格の取得および資格維持の費用がかさむ点は、デメリットといえるでしょう。
ただしメリットで紹介したように、勤務先によっては資格を有していると給与が上がる場合もあります。そのような場合、資格取得や資格更新にかかる費用を補うことも、そこまで大変なことではなくなるでしょう。
専門医の資格を取得するには
専門医の資格を取得するには、どのようなステップを踏む必要があるのでしょうか。順を追って解説します。
- 大学医学部を卒業し、医師国家試験に合格する
- 2年間の臨床研修を終える
- 自分が目指す診療科(基本領域)を決める
- 指導医のもとで、3~5年間の専門研修を受ける
- 一つの病院にとどまらず、さまざまな地域や医療機関で診療に従事し、技術習得や経験を重ねる
- 専門研修修了後、領域ごとの認定試験を受ける
- 認定試験に合格後、晴れて専門医に
以上のような段階を経て専門医の資格を取得します。また資格取得後は、原則5年ごとに各分野の基準に沿った更新が必要です。
さらに、基本領域の専門医を取得したあと、より専門性の高い診療科(サブスペシャルティ領域)の専門医が取得できるようになります。サブスペシャルティ領域の資格取得は、より高度な専門性の証明となり、希少価値が高まるでしょう。
参照|日本専門医機構|一般の皆様へ
専門医の資格の取得状況
2022年に、一般社団法人日本専門医機構が発表した、日本の専門医の資格取得状況は以下の通りです。
学会名 |
専門医名称 |
学会認定 専門医数 |
機構認定 専門医数 |
日本内科学会 | 内科専門医 | 1,733 | 1,773 |
認定内科医 | 86,903 | 0 | |
総合内科専門医 | 37,790 | 0 | |
日本小児科学会 | 小児科専門医 | 2,649 | 14,231 |
日本皮膚科学会 | 皮膚科専門医 | 7,097 | 0 |
日本精神神経学会 | 精神科専門医 | 10,741 | 1,324 |
日本外科学会 | 外科専門医 | 24,259 | 1,269 |
日本整形外科学会 | 整形外科専門医 | 6,216 | 14,227 |
日本産婦人科学会 | 産婦人科専門医 | 13,717 | 6,615 |
日本眼科学会 | 眼科専門医 | 11,512 | 0 |
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 | 耳鼻咽喉科専門医 | 1,046 | 7,285 |
日本泌尿器科学会 | 泌尿器科専門医 | 5,379 | 1,541 |
日本脳神経外科学会 | 脳神経外科専門医 | 2,527 | 5,407 |
日本医学放射線学会 | 放射線科専門医 | 7,975 | 1,101 |
日本麻酔科学会 | 麻酔科専門医 | 4,819 | 4,583 |
日本病理学会 | 病理専門医 | 2,726 | 2,046 |
日本臨床検査医学会 | 臨床検査専門医 | 254 | 378 |
日本救急医学会 | 救急科専門医 | 5,667 | 1,019 |
日本形成外科学会 | 形成外科専門医 | 869 | 2,045 |
日本リハビリテーション医学会 | リハビリテーション科専門医 | 1,141 | 1,683 |
日本専門医機構 | 総合診療専門医 | 74 | 74 |
出典:一般社団法人 日本専門医機構「日本専門医制度概報【令和4年(2022年)度版】」
「学会認定専門医数」は旧制度時に取得した人数を表しており、「機構認定専門医数」は2018年以降の新制度による取得および学会認定専門医から機構認定専門医に移行した人数を表しています。
両方を合計すると、314,125名の医師が専門医資格を取得している計算になります。専門医の資格取得には分野の制限がないため、一人の医師が複数の資格を有している可能性がありますが、多くの医師が、何らかの専門医の資格を保有しているといえるでしょう。
専門医のキャリアプラン
専門医の資格を取得すると、医師としてどのようなキャリアプランを望めるのでしょうか。一例を紹介しますので、参考にしてみてください。
【20代:専門医資格取得の基盤作り】
- 2年間の前期臨床研修後、3〜5年間の後期研修を受ける。
- 専門医資格の取得を目指し、多くの医療機関で経験を積む。
- 経験をしっかり積み、専門医としての基盤を固める。
- 専門医資格試験に合格し、専門医資格を取得する。
【30代:専門医としての専門性を深める】
- 専門医としての資格を活かし、さらに専門性を磨く。
- サブスペシャリティ領域の資格取得や研究活動を進める。
- 指導医やマネジメントの役割も増え、後進の育成にも携わる。
- 30代後半には専門領域の役職を任される。
【40代:専門医としての実力を活かす】
- 市場価値が高まり、専門医としての経験や知識を活かしたポジションを求める。
- 開業や新しい医療機関での活躍を考える。
- サブスペシャリティ領域でのさらなる専門性を追求する。
- 自分のライフスタイルを大切にしながら、新しい環境や技術にも適応していく。
【50代:専門医として成熟し後進の指導にもあたる】
- 豊富な経験と知識を活かし、医療界でのリーダーシップを発揮する。
- 後進の指導や研究活動に力を入れる。
- 勤務先によっては院長や副院長のポストに就くこともできる。
- 50代でも転職や新しい挑戦は可能。生涯現役を目指す場合、無理なく働き続ける方法を考える。
- 専門医としての長年の経験を活かし、講演や執筆活動を精力的におこなう。
以上はあくまでキャリアプランの一例です。参考にして、自分自身に適したキャリアプランを立てるようにしましょう。
まとめ
今回は専門医の資格を取得するメリットやデメリット、キャリアプランについて解説しました。2018年の新制度導入以降、専門医資格の希少価値が高まりつつあります。各分野の学会年会費や専門医資格の更新に費用がかかるなどのデメリットはありますが、給与や待遇を考慮してくれる勤務先であれば、さほど気にする必要はありません。
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